すべての夢のたび。

1日1記事ぐらいな感じでいきたい雑記ブログ

昨日の続き

骨髄液の採取手術は全身麻酔だ。
数万人に1人は2度と目が覚めないので、手術前に、
「危険性は承知しているから事故っても訴えない」
という旨の誓約書にサインをさせられる。

……死んじまったら訴えるも何もないがな〓?
そのうえ骨髄バンクから最大1億の保険金が降りる。
まぁ実のところ、昔も今も世間に未練は別にないし、
“アタリ”を引いて目が覚めない、ってのでもいいよ?
と思ってた。約1名の家族に当座の生活費も出るし…。


日本の骨髄バンクのシステムでは、
ドナーに対して、患者の情報は何も知らされない。
ただ、最終同意後に「関東地方の、男の子である」
とだけ教えてもらえた。が…。

移植に使われる骨髄液の量は、患者の体重に比例する。
自分の場合、採取予定の骨髄液の量が非常に少なかった。
そこから逆算すると、患者は……1歳だ。両親の年も知れる。

まだ1歳の息子に対して「白血病です」と
告知を受けてしまった若い両親の心中は、如何ばかりだろう?
たとえ移植がうまくいったとしても、
5年生存率は6割程度なのだ。


手術後数ヶ月して、患者の母親からバンク経由で手紙が来た。
こちらのことは向こうに知らされていないはずだし、
向こうも自分たちが何処の誰かを特定できる内容は書けないし、
現在の患者の容態も書けない。

だから必然、手紙は異様にシンプルなものとなってしまい、
ただ感謝の言葉のみが綴られていた。

こんなものは受け取れない、と思った。受け取る資格がない。
こっちは気まぐれと、好奇心と、“アタリ”引きたさと、
「街角募金並みの善意」で移植に同意しただけ。
全く、対等じゃない。感謝をされるような筋合いではない。
手紙の返事は書かなかった。


ただ、できれば、心が真っ白でなくても、
募金並み善意を発揮することは、今後も許して欲しいと願う。


こちとら、もう手元には汚れっちまったお金しかないのだ。
でももし今ここにお腹を空かせてる人がいたとしたら、
「盗んだ」「拾った」そのお金でパンを買ってあげても、
綺麗なお金で買ったパンと等しく、その人の空腹を満たすはず、
と、信じさせてもらっても構わないでしょう?