すべての夢のたび。

1日1記事ぐらいな感じでいきたい雑記ブログ

使わないと、退化します

ほんとうの話だけど、日本語を忘れたことがある。言葉はコミュニケーションツールであると同時に、思考を組み立てる建材でもある。それらが必要でないときは、言葉はいらないのだ。


インドへ行ったときのこと。インドで使われている言語は非常に多いが(紙幣には十数種類の言葉で金額が書かれている)、イギリスの植民地だったため英語圏でもあり、観光地ではよく通じる。そして日本人のカタカナ英語に発音が近いため、インド人の話す英語は聞き取りやすいし、こっちの言うこともそれなりに理解してもらえる。とは言えうちは英検3級。まともに会話できるほどの英語力はない。ものを指差して"What?"、それを買いたければ"Please."と言って指を個数分立てる。"Thank you."はインド的発音では「タンキュー」だ。あとは10メートル歩くごとにやってくる押し売りに対して"No!"と言っていれば、用事の大半は済む。(英検3級どころじゃないと思います、それって)

こんなふうにして過ごしていると、脳内からどんどん言葉が失われていく。単独行動だから日本語はまるで使わないし、英語で思考を組み立てられるほどの力もない。というかそもそも考え事をしない。初の海外でひとり旅ともなれば、ゆっくりものを考えていられる時間などないのだ。五感を研ぎ澄まし、気を張り巡らせ、周囲の環境に即反応して動けないと「やられる」。入力→演算→出力ではなく、プロのスポーツ選手のように入力→出力。ボールが来たなーとか思わない、考えない。脳を通さず反射神経で行動しないといけない。

そんなある日、町中で初めて日本人とおぼしき人物を見かけた。そこで嬉しくて駆け寄り、話しかけようとしたのだが、なんと言葉が出てこないのだ。うちは数秒間の逡巡の後、かろうじて"Are you Japanese?"という英語を絞り出した。相手は、??という表情をして「はい」と言った。…なんとも、間抜けな光景だったのではと思う(アニメなら、ここでカメラが俯瞰で引いて固まった2人を映すはずだ)。それから日本語を再び使いこなせるようになるには、数十秒の時間が必要だった。


「そんなある日」と書いたが、実は日本を出て3日目の話だ。3daysで言葉を忘れてしまうには充分なのだ。と思っているんだけど、ここまで極端なのはやっぱり自分だけなのでありましょうか? 日本にいる限りは日本語に囲まれてるから、数日間自宅にヒキコモっててもこんなことにはならないんだけどね。