すべての夢のたび。

1日1記事ぐらいな感じでいきたい雑記ブログ

なぜ「なぜ人を殺してはいけないのか?」と問うてはいけないのか?

わたしがやっと気づくことができた「“倫理規範を疑ってはいけない”という倫理規範が存在する」という事実。それは何を意味するのか? 「現代の日本社会においては、“なぜ人を殺してはいけないのか?”という問いを発する行為自体が、端的に悪と見なされうる」ということです。


倫理規範、というのは、こういったものを考えています。

  • 人を殺してはいけない
  • 自殺をしてはいけない
  • 物を盗んではいけない
  • 嘘をついてはいけない

このようなものの他に、次のものがあったのだ、というわけです。

  • これらの倫理規範の成立根拠に疑いを抱いてはいけない

なぜ、最後のこれが倫理規範たり得るのか? それは、当然ですけれど倫理というものは社会を維持・安定・発展させるために存在するものであり(「なぜ人を殺してはいけないのか?」という質問に対する回答の多くは「社会が維持できないから」だった)、それを犯すものは悪と見なされるからです。ゆえに、「現に社会を成立せしめている倫理規範に疑いを持つ」という行為そのものも、社会基盤を揺るがしかねない行為と見なされ、社会に害を為す振る舞いと受け取られてしまうのです。特に、現代の日本のような均質で安定した社会なら、その構成員の大多数が同じような倫理観を共有しているものと想像され、だから倫理を疑うことに対する反発も多いし強いのだろうと考えられます。(そして、この「規範を疑うな」という規範は、社会がどう変わろうとも永久不変である)


「なんで人を殺しちゃいけないのか説明してください」と言った高校生について、はあちゅうさんは次のように語られていました

世の中には説明の要ることと要らないことがあって、
その質問は後者のカテゴりーに属するでしょ。


ここで、わたしは「この問いが“説明の要らないこと”のカテゴりーに属する、という考え」を「思考停止の結果」だと考えていたのですが、そうではなかったのです。思考を「停止」するのであるなら、はあちゅうさんには「思考を続ける」という選択もある。しかし、ここでははあちゅうさんには続けるほうの選択権はないのです。なぜなら、「倫理の内側」にいるものにとっては、自分たちを護ってくれている倫理規範を疑うことは端的に悪であるから、悪であるとわかっている側を意志的に選択することはできないのです。(また、選択肢自体が初めから見えない人もいると思われます)

このことは、ショックです。あたりまえですが、いまの日本社会が安定して存在している、という現実がある以上、「倫理の内側」にいる人が社会の大多数を占めているはずです。そういう人たちに対しては、「なぜ人を殺してはいけないのか?」という話題を持ち出すことですら、タブーであり、不必要なことであり、悪いことと見なされているらしいのです(たしかに、そういうことを聞くといきなり怒り出す大人は、存在する)。単なる思考実験としてでさえ、倫理規範に疑いを持つことは許されないようなのです。これは、「倫理の内側」にいる人(倫理の内側から出られない人)と、「倫理の外側」にいる人(倫理の外側に視点を持つことができる人)では、倫理的問題に関するコミュニケーションが成立し得ない、ということを意味します。

つまり、わたしがいままで、「倫理の内側」にいる人たちに対して、なんでこんな簡単な話が通じないのかなぁ、もっとよく考えてみて欲しいなぁ、などと思っていたのは、全部無駄なことであった、ということになります。原理的に最初から通じないはずのものであったわけです(しかもそのうえ、そういう人が大多数。そして、今後も、そういう話をするたびに突っ掛かられる可能性がある)。


例えるなら、鳥か。わたしが空を飛んでいて、ここからならいろいろなものがみえるよ、と地上に語りかける。しかし地上をよくよく見てみれば、そこにいたのはそもそも羽根のない生き物ばかりであった、ということ(ululunさんの場合は、いちど飛んでみて、やっぱり地上の方がいいかも知れないなぁ、と戻った感じ。それは、憲法9条を国民投票で選び直すのと同じように、意義のあることだと考えます)。または、壁か。外側からは、内側の世界の人はどうして壁を越えることができないのか?と思ってしまう。しかし、内側から見れば壁は壁でも洞窟の壁のようなもので、壁の向こう側なんてものはない。穴の中が世界の全てである、ということでしょう。


……というあたりまでが、今日気づいたことです。ある人にはこんなこと当然で、ある人にはそもそも何を言っているのか理解できないでしょうね。わたしは今後は「なぜ人を殺してはいけないのか?」よりちょっと先へ進んで、今日語ったあたりのことをいろいろ考えてみたいと思います。(なぜ「倫理規範を疑ってはいけない」という暗黙のルールに今まで気づけなかったのか?とか)