すべての夢のたび。

1日1記事ぐらいな感じでいきたい雑記ブログ

サルの社会性から人間を考える(まではいかなかった)

つながる脳

つながる脳


この本を読んで、あーこれもなんか書かないといかんな、と思ってたんです。が、この本は流れが一本道でなく、いくつかの話題に分かれてるんですね。ということでどこから攻めようか迷っているうちに時間が経ってしまったので、一番重要と著者が言っているしぼくもそう思ったところだけを書きます。

著者の藤井直敬さんによる、サルを使った実験。二匹のサルに脳の活動を計測する装置を取り付け、向かい合わせて座らせたり、90度の位置に置いたり、距離もいろいろ変えたり、道具を置いたり、片方にサングラスを掛けさせてみたり、そんないろんな状況を設定したところにエサのリンゴを置いてみて、取り合いをする様子を観察する。そういう実験を繰り返し繰り返し行った結果から導き出された洞察。

 サルたちは自分の中の社会的ルールに照らして、自分より強いと知っているサルが隣にくれば、自分を弱いサルモードに切り替えて振る舞います。そして、自分より弱いサルがやって来たときには、強いサルとして振る舞います。そして、初めて会ったサル同士は、まずはどちらも強いサルとして相対します。
 この様子を見ていると、基本的にサルたちは、一人の時は強いサルとして振る舞っていることがわかります。つまり、サルたちのデフォルトのモードは強いサルなのだと僕は思います。
 このことは、デフォルトの社会性フリーの強いサル状態から、社会性をもった弱いサルに自分を変えるときに新しい機能が必要とされ、逆に自分が強いサルに戻ったときには、その機能を解除することでもとに戻るということを示唆しているように思います。
 それでは、強いサルから弱いサルに移行したときに発現される機能とは何でしょうか。それは今回の実験の結果から見えてきた通り、行動の「抑制」であると僕は考えます。強いサルに対して、自己の欲求を抑制することが彼らの行動から私たちが見ることができる最大の変化です。ということは、抑制の形をとって表現される弱いサルの行動は、非言語的なメッセージとして私たちが理解できるように、強いサルにも間違いなく伝わっているはずです。


藤井さんは、社会性の根本は「抑制」だと言います。サルは単独であれば「強いサル」として振る舞う。それは、そうだろうな、と思います。単独の時に弱い個体として振る舞うような生物は、生存競争に勝ち抜くなんてできないでしょう。だから、デフォルトは強いモードなわけです。そういう個体が群れになり社会的な行動が必要になると、抑制という機能が生まれてくることになる。

この話をすると、よく「社会的行動には、"協調"だってあるのでは」という質問をもらうそうです。でも藤井さんの考えは、「基本は抑制」です。そう考える理由はまず、人間の社会機能はサルの社会機能の上位互換になっているのだろうという推測。動物園のサル山のサルをヒトがずっと見ていて飽きないのは、彼らのやりとり、ボディランゲージのようなものがヒトにも読み取れるから。逆に、ヒトのしぐさからサルが深い意味を読み取っているような様子は観察できないそうです。そして、サルの社会にはどうやら協調行動というものは存在しないらしいということ。じゃグルーミングとかはどうなの?というと、サルはなんでもほつれてるようなものなら反射的にほぐし始める性質があるそうで、ほっとくといつまでも何回でもやってるそうです(笑)。そういうのを延々見ている限りでは、これに社会的意味があるとしても、後からついてきたものだろうというのが藤井さんの考えです。

そういった事柄(ここに書いた例だけではありませんが)から、おそらくは「協調」よりも「抑制」が、先に人間に備わった、というかサルから引き継いだ社会的機能なのだろうと考えられる、という話です。例えば人間の子供の発達過程を見ても、抑制の一種と見られる「人見知り」は生後7ヶ月くらいから観察される。ところが協調行動になるとなかなか難しい。ぼくは空気読めないヒトのことをここで連想しました(笑)。

二匹のサルの間の上位下位の関係は、いったん決まるとほぼ固定化するそうです。エサの取り合い実験において、あるケースでは実験を始めた初日後半ではだいたい順位が決まり、3日もすると安定して以降変化はなかったとか。ということは、サルに「繰り返し囚人のジレンマ」みたいなゲームをやらせたら一方はずっと負け続けるんじゃないでしょうかね(エサの取り合い実験では、実際には上位サルの隙を見て下位サルがエサを掠め取ることが時々は起きるそうです。実験を繰り返すと、下位サルのほうがどんどん賢そうな目になってくるとのこと)。ではそこからどうやって、ヒトは協調機能を獲得したんだろうか? 協調行動によるより大きな集団的利益獲得の可能性に気付いたんだろうか? ここには結構距離のあるジャンプが存在するような気がします。なんだろう? いったい何がきっかけになったんだろう? としばらく考えていたのですが、あまり思い当たるようなフシ(=サルからヒトへの進化段階上のできごと)もないので、まぁ他の人に振るかと思ってエントリに起こすことにしました。

やはり「客観的視点を持ち得たこと」がきっかけなのかなぁ。1対1の関係を、外から見る。外から見ないと「全体としてはこっちのほうが利益があるわ」なんて気付かないですよね。その辺と関係するのかな。


ちなみに著者の藤井さんは、MITでずっと研究をされていたのですが、tokyocatさんのエントリに出てくる入來篤史教授にお誘いを受けて2004年に理研に移られ、現在もそこで研究を続けられているそうです。