すべての夢のたび。

1日1記事ぐらいな感じでいきたい雑記ブログ

罪のアント

アント(ニム)とは「対義語」のこと。太宰治『人間失格』より引用します。

(………)しかしまた、堀木が自分をそのように見ているのも、もっともな話で、自分は昔から、人間の資格の無いみたいな子供だったのだ、やっぱり堀木にさえ軽蔑せられて至当なのかも知れない、と考え直し、
「罪。罪のアントニムは、何だろう。これは、むずかしいぞ」
 と何気無さそうな表情を装って、言うのでした。
「法律さ」
 堀木が平然とそう答えましたので、自分は堀木の顔を見直しました。


ぼくが初めて『人間失格』を読んだのは中学生の頃で、この部分を読んでいて「なんで"罪"の対義語が"法律"になるんだ? 意味不明すぎ!」と思ったことをよく覚えています。小説中でも同様に主人公が悩むシーンがこのちょっと後に続きます。

「しかし、牢屋(ろうや)にいれられる事だけが罪じゃないんだ。罪のアントがわかれば、罪の実体もつかめるような気がするんだけど、……神、……救い、……愛、……光、……しかし、神にはサタンというアントがあるし、救いのアントは苦悩だろうし、愛には憎しみ、光には闇というアントがあり、善には悪、罪と祈り、罪と悔い、罪と告白、罪と、……嗚呼(ああ)、みんなシノニムだ、罪の対語は何だ」


当時のぼくも、では罪の対義語っていったいなんなんだ……と時折考えたりしていたのですが、答えが出ないままいつしか問いを忘れ去っていました。しかし最近なんとなく、「堀木」の言う、罪のアントは法律、ということの意味が解ってきたような気がします。

 このたびは、いち社会人として、人として、決して手を出してはいけない薬物というものに、自分の弱さゆえに負け、そして今このように世間を騒がし、多くの皆様にご迷惑をおかけしました。これまでに私を支え、応援してくださった皆様には、どれほどの残念さと、私の無責任な行動に幻滅なさったことかと。計り知れないことで、決して許されることではありません。この罪を今後どのようにして償っていくのか。まずは自分の罪を悔い改め、二度とこのような事件に手を染めることのないよう、一生の約束として固く心に誓います。


ぼくがもし覚醒剤を使用して逮捕されたなら、果たしてこのように罪を悔い改めることができるものかどうか、はなはだ不安です。酒井法子さんはすごいと思う。それとも、警察の"悔い改めさせ力"がすごいということなのかも知れませんが。

覚醒剤の使用がなぜ罪なのかというと、法律にそう定められているからに相違ありません。

たとえば最近よく大麻の栽培で逮捕されている人を見ますが、大麻の使用は国によっては合法なわけです。それに、大麻には習慣性もなく、使用したときの影響もアルコールのそれよりずっと軽いとされています。そしてご存知の通り酔っぱらいによる事件事故は始終ニュースになっています。

ですが、大麻を使用することはこの国では罪です。法律で決まっているからです。アルコールの摂取は罪ではありません。法にそう定められていないからです。

もしも他人を害したのなら、ぼくも多分それを悪いことだと反省するでしょう。しかし酒井さんは他人を傷付けたわけではない(ファンを裏切ったということはあるかも知れませんが、それは法に抵触し逮捕要件になるものではありません)。捕まるまでは覚醒剤の使用が「悪いこと」だとは思っていなかったはずです。

「悪いこと」と「法に触れること」は、当たり前ですが別のことです。たとえば今の世の中に「不敬罪」が復活してあなたが逮捕されたなら、あなたは「自分の罪を悔い改め」ることができるでしょうか?

ぼくは、「法に触れること」を「悪いこと」と"思い込む"のはなかなか難しいのではないか、と考えます。それがやれたのなら、警察の力はすごい。しかしそうではなく、たぶんきっと、逮捕された芸能人に望まれること・期待されることをその通り演じて見せただけで、別に悪かったなどと思ってはおらず、きっとまたいつかやらかすのではないかなーと感じています。彼女がそういう性格だ、というのではなく、罪のアントが法律であるが故に、です。


それにしても「おめでとう」の横断幕はないよな、と思ったんですが、これもまた「悪ではない」という意識の表出なのでしょうね。そしてあのヤクザ運転手もちょっとありえないw