すべての夢のたび。

1日1記事ぐらいな感じでいきたい雑記ブログ

過去の喪失

この9月の連休は部屋の片付けをすることに決めていて、まぁまだ終わってないのだけど、連休初日の夜に別居中の嫁から電話が来た。「明後日に家に業者呼んで部屋を片付けるから、必要なものは明日の内に持ち出せ」と。

彼女とは別居中だ。ぼくが出て行った。その時に身の回りのもの一揃いとPCくらいしか持ち出さなかったので、ほとんどの私物はまだ元の家にあった。別居する1年ほど前から仕事の忙しさと彼女との不和で半ば精神的に破綻していたぼくの部屋は荒れ放題の状況であり、いままでずっとそのままになっていた。一方で彼女も所謂片付けられない人なのでつまりは家中カオス状態だった。そして見かねた彼女の実家がゴミ屋敷片付け業者を呼ぶことにしたのだ。家の中のすべてのものを一旦処分する、という。

そんなわけで、自分の部屋を片そうと思ったらいきなり横やりの格好になったけれど、こういうことでもないと機会もないし、変な偶然もあるものだと思い、連休2日目に旧自宅へ行った。途中に寄った無印良品で旅行用キャリーを買った。それに入るだけのものを持ち帰るつもりで。

旧宅に着き、猫と遊んだ。新しい子猫だ。人見知りせずすり寄って来て膝の上に登ってノド鳴らし放題だ。1時間ぐらい経ってしまった(彼女もニコニコしながら見ている。機嫌がいい時の彼女には大きな問題はない)。自分の部屋へ行って荷物を詰めようとキャリーを開けると、ついて来た猫がキャリーに飛び込んで丸くなってしまう。本を詰めるので猫を除けると、初めて入る部屋に興奮した猫が部屋中駆け回りものを倒しまくる(もとから荒れた部屋なので大差ないが)。そしてまた荷物を詰めようとすると隙を狙ってキャリーに飛び込む。また除ける。ということを何度か繰り返してキャリーは本とCDでいっぱいになった。ガタつかないように隙間にいらない服を詰めた。

彼女と猫に別れを告げて旧宅を出る。ちょっとキャリーが有り得ない重さになっている。本来の用途と違うだろうし車輪が壊れたりしないか心配になる。が、ガラガラゴロゴロとなんとか家まではもった。

翌日は旧宅に業者が入る日(猫はペットホテル行き)。そして連休4日目に嫁から「家のものはすべてなくなった」と報告の電話が来た。


ぼくは最初から本とCDしか持ち帰るつもりがなかった。というより他のものは意識に上らなかったのだ。しかし、「すべてなくなった」と聞いて、いろいろと思い出されてきた。

結婚して一緒に住むようになる前のぼくは一人暮らしだった。その時、実家から出るにあたりいろいろなものを持ち出してきている。それらは特に用もないのでダンボール箱に入ったまま旧自宅にあったはずだ。それとか、趣味で集めていた古いカメラ。そいつで撮った彼女の写真。とっくに絶版になっている数々の漫画(今回漫画は一冊も持ち帰らなかった)や、オタクなグッズ類。彼女や彼女の実家からもらったものや手紙。旅行先で買ったものや撮った写真とか。

そういったもの全部があっさり処分されてなくなってしまった。それってなかなかすごいなーと思う。つまり、ぼくのここ十数年を証明できるものはもうなにもないのだ。結婚生活をしていた間のことすら、なんにも残っていない。それどころか彼女の側にももうない。いずれ別れることになる相手のものを人はなにか残しておいたりするものか、他人と比べようもないので分からないけれど、ぼくの手元には1枚の彼女の写真もない。これでこのまま別れてしまったら、ケッコンとか脳内乙と誰かに言われてもどうしようもないのではないか。

でも、そんなことになるとは意識していなかった。これも人とは比べようもないことだけど、ぼくは過去のことをあまり振り返らない人間のようなのだ。昔を懐かしむ、ということがほとんどない。また、記憶というのは時々思い出してやらないとどんどん薄れていくものであるらしい。この2つのことが互いに原因となり結果となり、過去のこととかどうでもいい人間ができあがったのかもしれない。

そういう感じで、記憶につながるようなものを持ち帰ろうとは意識されなかったんじゃないかと思う。まぁ、今更なにを言っても遅い。どっちにしろもう取り返しようもないのだ。そしておそらく実際に、それらは必要なかったのだろう。何年も放置された上、最後の瞬間にも顧みられず捨てられるようなものは、間違いなく最初からいらないものなのだ。そしていずれぼくが死ねば残ったものもいらないものになる。


今日は月2回しかない燃えないゴミの日なので、早めに起きて炊飯器に鍋にフライパンに食器を捨ててきた。自分はこの家で料理をすることはないのだと、何年も暮らして知ったので。あと、電話機やらスピーカーやら使わない電化製品も捨ててきた。明日は朝から本の引き取りが来る。また数百冊処分だ。というか旧宅から持って帰ってきたキャリーも開けないで放置したままだ。果たしてどれだけ有効な仕事だったのか怪しいものである。