すべての夢のたび。

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《メトロノームと無響室のための作品》体験してきた

初台にあるICC(NTTインターコミュニケーション・センター)の展示"OPEN SPACE 2009"に行ってきました。複数ある展示のなかで個人的に飛び抜けて印象深かった「メトロノームと無響室のための作品」について紹介します。

ICCには無響室がありますが、これは常設のものらしい。前回なにかの展示会で行った時にも入れました。しかし、その時は特になんの作品もなく、ただ無響室がそのまま開放されていただけでした。

で、その時が無響室というものに接する初体験だったわけです。とても不思議な印象でした。箱型の部屋の内部が全て吸音材で覆われており、ドアを閉めればほぼ無音状態になります。ちょっとした階段を登ってから無響室に入るわけですが、部屋のドアの部分の方向だけ音の反射がないのが、近づく段階でもうはっきりと判るのです。負の音というか、無音を発するカタマリがそちらにある、ということを体感が告げるのです。これはちょっとない経験です。

さて今回の展示ですが、作品紹介の最初の部分を引用します。

室内の椅子に座ると,目の前のメトロノームがリズムを打っています.それに合わせて別の場所,空間で録音されたさまざまな音の出来事が重なったり,消えたりを繰り返し,それに連動して照明も変化します.目の前のメトロノームに重ねられる音は,観客が聞いているのと全く同じ位置関係にメトロノームを置き,様々な空間において録音したものです.そのためメトロノームを中心に周囲の空間が移り変わっていくような感覚が与えられます.

今回の展示はリンク先の写真とは異なります。ヘッドホンをしているのは無響室がなかったからでしょうね。今回のICCのは、無響室の中央に椅子がひとつ、その少し前にちいさなテーブルがあり、そこにメトロノームが乗っています。メトロノームはずっと揺れています。

で、椅子に座ると、係の人から「もし気分が悪くなったら椅子の下にあるボタンを押してください」と注意を受けます。なる人もいるらしい。ボタンを押したら係の人が来るまで、また体験が終わっても係が来るまで動くな、とのこと。

そして係の人が出ていき、外部からドアが閉められます。完全無音、のはずなのですが、自分の呼吸音は響く。そしてシーンというかピーンというかツーンというか、とにかくそういう耳の痛くなる音が強く聞こえる、ような気がします。

照明が落とされ、メトロノームに当たるスポットライトだけになる。メトロノームはカッ カッ カッ カッと時を刻んでいる。が、スポットが暗くなるのと符合して音がカカッ カカッ カカッと変化します。まるでメトロノームが二重になったよう。さらに音がカカカッ カカカッと変化し、スポットライトも完全に消えて暗黒状態、そのなかでバイノーラル録音されたいろんな音が周囲に出現します。マッチを擦る音や紙をめくる音、水をコップに注ぐ音などが、手を伸ばせば音の源に触れそうな空中に位置している。

やがて時を刻む音がカカッ カカッ カカッからカッ カッ カッ カッに戻るのと同時にスポットライトが戻り、そこにはただのメトロノームがあるだけです。なんだったんだ……と思うまもなくまた音が二重になり、ライトが絞られ真っ暗に。この、スポットに照らされたメトロノームの針がカッ カッと触れるのをじっと見ているうちに不意に音がカカッ、カカッ、カカカッ、カカカッ、と二重三重になっていく、というのがかなりヤバい。幻覚に掛けられて意識を持っていかれそうな感じになります。そして今度は田舎の夜が出現したり、波打ち際が出現したりする。最後に出現したものは、あれがもう少し続いたら逃げ出したい気分になっていたと思う。耐えられるギリギリくらいのところに体験時間が設定されていると感じました。

というわけで、なかなかお目に(お耳に?)に掛かれないものだったなー、という感じです。で、残念ながらこのオープン・スペース2009は来週日曜で終りなのです。もっと早く行っとくんだった。そしてこの展示は体験時間が約5分かつ完全に1人ずつのため、整理券をもらって順番待ちです。今日は1時間待ちほどでした。無料だし、近所でお時間ある方にはお薦めしたいです。ただの無響室だけならまた次の展示の時にも開放されるんじゃないかと思いますが。