すべての夢のたび。

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『きみはなぜ生きているのか?』を読んだ。

きみはなぜ生きているのか?

きみはなぜ生きているのか?

あの中島義道センセイが子供向けの本を書いた、ということ自体が最大のトピックなので、早速買ってきました。物語仕立ての哲学入門書です。

ストレート過ぎる書名に続き、各章のタイトルもストレートです。

もくじ


はじめに
1 きみがいつか死ぬということ
2 未来はどこから来るんだろう?
3 過去はどこへ行ってしまったのだろう?
4 「いま」って何だろう?
5 どうしたらきみは幸せになれるんだろう?
6 どうせ死んでしまうのに、なぜ自殺してはいけないんだろう?
7 きみはだれだろう?


「生きること」を真剣に考えているきみへ


哲学の入門書であると同時に、「生きること」について悩んでいる人(子供)への指南書でもあるわけですが、この2つはつまり同じことなのかもしれません。ストーリーとしてはシンプルで、高校に入ったもののいろいろあってひきこもりになってしまった「クライ君」(あだ名)のもとに、どこの誰ともわからない「ニーマント」と名のる人物から、夏休みの間の5日に1度手紙が届く、という感じ。言ってはなんですがアリガチです。語りかける、という形式がきっとこの手の本ではやりやすいのでしょうね。

ニーマントからの手紙を読むたび、クライ君の世界に対する捉え方は徐々に変化していきます。それが正しいのか、唯一の方法なのか、といったことはさておき、テツガク的な物の見方をニーマントから刷り込まれていく。みんなは自分をごまかしてほんとうのことを見ないようにしているんだ。そして確かにクライ君の心は軽くなっていくのです。ぼくを含め、そういうのが必要な人は、いるってことです。


グッときたところ。5章「どうしたらきみは幸せになれるんだろう」より。つまり、幸せのなりかたです。

 大きく分けて、人の生き方には二種類あるように思われる。一つは、自分の好きなことを一生続けている人の生き方、あるいは自分の好きなように生きている人の生き方。もう一つは、それができない人の生き方。さまざまな要因があることはわかっている。そのうえで、きみには全力をあげて好きなことをしてもらいたい。これこそ、あと数十年で死んでしまい、その後はたぶん永遠の無であって、その途中でもまさに一寸先が闇であるこの人生において、きみがどうにか幸せになれるたったひとつの道なんだから。
 好きなことをしていれば、それがうまくいかなくても、他人に評価されなくても、他人から非難されても、きみはたえることができる。だって、それはきみの好きなことなんだから。
 そして、その「好きなこと」をきみが自分で選んだのなら、きみはその結果どんなに貧乏になろうとも、どんなにみじめな思いをしようとも、あきらめられる。だれをも責めなくなる。だって、きみ自身が選んだのだからね。


ニーマントのことばはまだ続きますが、まぁあとは、このことの補強ですね。ぼくは幸せですが、なぜ幸せなのかを忘れていました。まったく同じ、ぼくは好きなことを自分で選んだことを知っているから幸せなのでした。つまり「このこと」を人生全体に適用しているからです。


人は、誰に頼まれて生まれてきたわけでもないです。こんな場所に生まれおちることに事前の同意なんて求められてないし、了承もしていない。両親が欲しがったのは「子供」であって「このわたし」ではない。そして同様に、いまのいまも誰に頼まれて生きているわけでもない。死んではいけない、ということはない。ほとんどの人は、その気になれば、いまから数分、数十分以内には、死ぬことができるはずです。

そういった場所で、それでもなお生き続けるのなら、それは自分がそのことを選択したのだし、なぜ選択したのかと言えば、好きだからに他ならない、と、ぼくはある日そう思ったんでした。それで納得した。あるいは自分を丸め込んだ。どっちでもいいです。じっさいこの考え方はぼくに極めて有効だったということです。


子供向けの本だからって中島センセイは容赦無いです。

 そのとき、トントンとノックする音とともに「入っていい?」という小さな声が聞こえ、妹の美子さんが部屋に入ってきました。クライ君は、急いで手紙を布団の中にかくしました。
「なんだ?」
クライ君は妹に対してだけは、いばった口調になります。美子さんは、ドアのところでもじもじしていましたが、ようやく口を開きました。
「あのね、お母さんが泣いているの。お兄ちゃんが学校に行かないのは、自分の育て方が悪かったからだって……、そして、このまま死にたいって……いま、下に私ひとりでどうしたらいいかわからなくって……」
 そう言って、美子さんもうつむいてしくしく泣き出しました。
「なんだ、そんなことか」
 クライ君は、自分がいまこんな重大なことを考えているのに、みんななんとちっぽけなことで悩んでいるのだろうとおかしくなりました。そして、布団を頭からかぶりながら、ぶっきらぼうに言いました。
「そのとおり、育て方が悪かった。でも、もう手おくれだって言っておけよ」
 美子さんは、まだ鼻をくしゅんくしゅんさせながら、部屋から出ていきました。


ひどいし(笑)。偕成社よくokしたなこれ。つーかクライおめー妹もいるのに何やってんだよ……って気分になります(ちなみに姉もいる!)。ただの入門書なら初歩的なこと書いて終わりですが、この本はストーリーもあるので、そっちにもケリを付けないといけません。はたしてクライ君は二学期から学校へ行くのか? そしてニーマントの正体は? そのあたりを楽しみに読んでたのはぼくくらいかもしれませんが。

たぶん親としては、子供にはあまり読ませたくない本ですね。気づいて、賢くなって、扱いにくい子になってしまう。あるいは、もう洗脳が完了していて「そうは言ってもねぇ…」で済んでしまい、なにも起こらないかもしれませんが。大人にはどう作用するでしょうね。一瞬気持ちが楽になって、そのあとまたすぐ日常に戻ってしまう。そんなところでしょうか? 必要としている人のもとに、この本が届きますように…。