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科学のしくみ

宇宙のしくみ (朝日文庫)

宇宙のしくみ (朝日文庫)


著者は理論物理学者の佐藤文隆さん。面白かったけど、少し変わった雰囲気の本でした。数式は出てきません。説明はたぶんうまいのだけど、たとえが一通りではない。独自の世界理解があり、そこから必然的に繰り出されている感じ。

で、本の一番最後で佐藤さんの科学観の開示があり、おお、と思ったので紹介します。

 少し話がとびますが、円周率πの値は無限に続く数列です。しかも、ある有限の決まった数列のくり返しではなく、無限にランダムな出現をするといいます。何の規則性もありません。しかし、たとえば、一万桁のところで数列を切って、この有限部分を見れば、その具体的対象にはさまざまな特性が見つかるでしょうし、もっと長い数列を見ればかき消されてしまう性質でも、ある部分はある特性で特徴づけられることでしょう。私はここに何か宇宙と同じものを見る想いがします。


円周率を仮に1万桁で切ってみる。すると、1は最大何桁連続で並んでいる。2は最大何桁。3は何桁。ということはこれらの規則性は……。また各数字の出現数は……云々。こんなふうに、法則を見出すことができるだろうってことです。

 いずれにせよ、自然はやはり無限だろうと思います。問題は、われわれ有限者はそこの何を見ているのであろうか、ということです。円周率πのある勝手な有限部分を取り出して見ているにすぎないのかもしれません。現代の理論物理は、一〇のマイナス三三乗センチから一〇のプラス三〇乗センチまでにもわたる広い自然の部分を切り抜いて、ある規則性を発見したのだから、それは単なる無限数列の勝手な有限部分ではないと力むかもしれませんが、無限から見れば無限小にすぎない範囲です。
 無限な自然の側から見れば、有限の特性は何も見られない。その豊富な特性は、すべて偶然な有限性に起因します。


しかし実際には円周率は完全にランダムな数列なわけです。任意の数列(1が100万個連続して並ぶとか)は必ず円周率のどこかに現れる。ということは、1万桁に区切った時に法則に見えたものは単なる錯覚で、ほんとは法則なんてなにもないんだってことです。

むしろ、物理は、いまでも十分普遍ではなく、「単に無限数列の勝手な部分を見ているにすぎないのではないか」という批判にこそ戦慄すべきであると思っています。


これは超ドライな見方ですよね。素朴実在論的な、あらかじめ(=人間なんていなくても)そこにいろんな対象があり、それらの間にある法則を発見していくのが科学だ、というのとは逆で、無限の中から人間の手で切り出したわずかな有限部分について、人間が解釈して意味付けしたのが科学なんだと、そう言っている。

いつか科学が進歩し世界のすべてが明らかになるような、そんな日は絶対やってこない。科学はどこまでも人間のための科学であることを忘れてはいけない。ぼくもそれに同意なんですけど、でも大半の科学者はたぶんそうじゃなくって、実在論寄りなんでしょうね。


ところでこの本でもういっこ収穫がありました。CERNがLHCでマイクロブラックホールを作る実験をやるとかで、事故ったら地球が吸い込まれちゃったりするんじゃないかとか、そういったことが話題になったりしました。そんなのはー、ぜったいおきません、ということが、この本読んできちんと理解し納得することができた。皆さんご安心ください(笑)。ほんとに、理屈を聞いてしまえば、「地球が吸い込まれる!」なんてのは、鼻で笑っちゃうくらいに馬鹿らしく微笑ましい勘違いでしたと。