すべての夢のたび。

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じっと手を見る

拡張する脳

拡張する脳

「人間関係」を、脳はどう捉えるのか? 斬新な脳科学の可能性がここに! 『つながる脳』(毎日出版文化賞受賞)で、脳やコミュニケーション研究に一石を投じた著者が開発した、SRシステム。「現実」と「代替現実」を視覚と聴覚を通じて自在に切り替え、脳のリアルな反応から、目の前の「現実」を検証する――。相手との関係性や状況で、脳は認識を次々と拡張していく。あなたの「世界」を大きく変える一冊!


脳科学者藤井直敬さんの著書『拡張する脳』に「SRシステム」というものが出てきます。SRはSubstitutional Realityの略で、日本語で言えば「代替現実システム」ということになるようです。

 SRシステムは、「この世界」と「もう一つの世界」の間で、視覚と聴覚だけを切り替えます。言い換えると、SRシステムは視覚と聴覚を乗っ取ることのできるシステムです。ここではとりあえず、目から入る情報と、耳から入る情報を自在に操作できる装置だと思って下さい。コンピューター好きの人になじみ深い言い方をすると、SRシステムはあなたの視覚と聴覚をハックするわけです。たった二つの感覚を操作するだけですが、後で見るように、その効果は劇的です。


どんなものかというと、パノラマビデオカメラとHMD(ヘッドマウントディスプレイ)の組み合わせです。そしてHMDにさらにカメラが付いています。被験者が椅子に座りこのHMDを装着すると、その場の現実を、HMDにセットされたカメラを通したリアルタイム映像として見ることになります。

ここからが面白いのですが、SRシステムは、被験者の頭の位置とほぼ同じ場所にパノラマカメラを設置して撮影した過去の映像データを持っており、それを被験者に気づかれないように自在に切り替えてHMDに映し出すことができるのです。HMDは方向センサーが付いていて、頭を振ればちゃんとそちら側の映像が見えるようになっています。

で、被験者は、HMDを通して現実を見ているつもりでいると、過去の映像を見せられていて何もない空間に向かって平然と誰かの質問に答えていたり、部屋のドアを開けて自分が部屋に入ってくるのを見て驚愕したりするという。そして「今のはさっき撮影しておいた映像ですよ、今度はほんとうです」と語る実験者の過去の映像を見せられてまた騙される。


さて、そんなSRシステムで現実と代替現実を見破る方法があります。それは自分の手を見ることなんです。自分の手を動かしてもHMDに映らなければ、今見ているものは代替現実(過去の映像データ)なわけです。

……という、このくだりを読んで、ぼくは興奮しました。というのは、ぼくの好きなカルロス・カスタネダの本、呪術師ドン・ファンシリーズに同じようなシーンが出てくるからです。

カスタネダはヤキ・インディアンのシャーマンであるドン・ファンに師事して呪術師となる訓練を受けるのですが、その中に夢見の技術というのが出てくる。夢をコントロールし、夢のなかで自由に行動ができるようになるというものです。そして、眠り、見る夢の中で好きな場所へ行き、そこで目を覚ますと、現実でその場に移動することができるようになる。そうドン・ファンは言います。

で、その夢見の技術の第一歩が、「夢の中で自分の手を見るように意識する」というものなんです。

なんという一致か! 脳科学と精神世界がこんなところで繋がってしまうなんて。どちらも「現実である!」と意識させるために自分の手を使うのです。

ここでぼくはあんまり興奮してたもんで著者の藤井さんにTwitterでこの件についてreplyを送ってしまいました(笑)。RTしていただいたので目は通していただけたんだと思います。


さらにこの本は最後のほうでもう一捻りあって。なんとサルにSRシステムを使わせるのですが……

ただ、サルも見えている映像が普通だとは思っていないようで、ヘッドマウントディスプレイを使い始めてしばらくすると、じっと自分の手を見る仕草を見せました。平常状態でサルが自分の手をしげしげと見ることはほとんどありません。サルの気持ちは分かりませんが、このサルの様子は、ヒトの被験者が現実と代替現実の区別がつかなくなったときに自分の手を見て両者を区別しようとしている様子と、実によく似ていました。


サルも自分の手を見るというのです。こりゃなんか、深いものがありそうな気がします。手を見るというのは、コントロール可能なものとしての自己と、それ以外のもの・ことを区別するための、ごく基本的な動作なのかもしれません。


ところで一昨日、ぼくは夢の中で自分の手を見たんです。ごく自然に手を動かして、それを見てしまった。そして、「あ、これ夢だ。カスタネダの本の通りだ」って気づいたんです。で、夢なら飛べるよなーと思って、どう飛べばいいかもわかっていたので、その感覚を呼び起こして、飛びました。そうして、これで好きなとこに行って目を覚まして、もしほんとうにそこに行っちゃったらどうすればいいんだろう……なんて考えていたら、iPhoneの目覚ましのアラーム音に起こされました(笑)。

その「こうすれば飛ぶ」って感覚を覚えてます。現実でやっても浮いたりはしませんが。また夢の中で手を見ちゃったらどうすればいいのかなー。少し怖いですね。