すべての夢のたび。

1日1記事ぐらいな感じでいきたい雑記ブログ

「この文章は今あなたに読まれている」

4/8の記事「この文章は面白いか面白くないかのいずれかだ」の続きです。先にそっち読んでもらえると。

これから書く文章はたぶんにプレローマ的。プレローマって何かってのはこれから説明します。言葉のちゃんとした定義とかあまり重視しないんで、勘で読んでください。


むかーし読んだベイトソンの本*1に出てきたプレローマとクレアトゥーラという概念を用いて説明します。ググるとプレローマは「力と衝撃の粗野な世界」、クレアトゥーラは「差異と区別なしには何も語り得ぬ世界」というような定義がでてきました。混沌と秩序と言ってもいいかもしれない。わたし的に言えば、ありのままの宇宙がプレローマ、プレローマを人間が言葉で捉えたものがクレアトゥーラです。

さて、「この文章は嘘である」ですが、こういうものはクレアトゥーラの世界でしか成立しません。「命題の真偽」「嘘」「矛盾」などという概念は、プレローマ(ありのままの宇宙)には「ない」のです。


ウィトゲンシュタインは『論理哲学論考』で「言語は世界の写像である」という考えを提出しました。世界には論理的な構造があって、それを言葉で写し取れる、みたいな感じです。けれど、後にこの考えを撤回しています。この「撤回」の理由を説明するうまいアイデアについて、永井均先生の本*2で読んだのか鬼界彰夫さんの本*3か忘れてしまいましたが、ちょっと書いてみます。以前、「今、“でない”が気になるblog」みたいなの書いたんで、一応リンク貼っておきます

「でない」。否定。Aという命題を否定するには「¬」を前につけて¬Aとします。「Aでない」ですね。じゃ、ここに林檎を描いた絵があるとします。これを否定するにはどうしたらいいか。絵の否定とは? 絵に「×」を描く? ここで大事なのは、「¬¬A」は「A」だと言うことです。×を描いた絵にさらに×を描いても元の絵にはなりませんね。絵の否定として絵を逆さにしてみる? じゃ「逆さの林檎」の絵は描けなくなってしまう。そもそも元から天地がわからない絵もありますしね(笑)。ネガポジ反転した絵を描く? それもだめそうです。

歌Bがあったとして、「¬B」という歌を作れるでしょうか? 「ライターでない」という物体を作れるでしょうか? 時計はライターじゃないけど、道に時計が落ちてたら「あっ、ライターじゃないものが落ちてる」とは普通思いませんよね。つまり、絵や歌やモノ、要は世界を構成するほとんど全てのものはプレローマ界にあります。というより「言葉」「論理」「真偽」「嘘」「矛盾」なんてモノは、ヒトのアタマのナカ(クレアトゥーラ界)にしか存在しないんです。


だから物事の真偽にあまり拘泥すべきではないとわたしは思います。「¬A」で着目すべきは“¬”でなくて“A”なんです。彼女が「ねぇ、ワタシのこと好き?」と聞いてきたら、「うん、好きだよ」と答えようが「別に好きじゃないし」と答えようが、ちゃんと「意味するところ」は通じるんです。

『ドラえもん』で「ウソ800」という、喋ることが全てウソになる道具をのび太が使う話があります。ドラえもんが未来に帰ってしまうんですが、のび太が「ドラえもんはもう帰ってこないんだ…」とつぶやいた時、ウソ800を使っていたのでそれが「ウソ」になり、ドラえもんが戻ってきます。そしてドラえもんと抱き合うのび太のラストのセリフ。「嬉しくない! これからもずっとドラえもんと一緒に暮らさない!」 ね、“本質”があれば文の真偽は関係ないでしょう?


どの宗教にもメソッドとして「瞑想」があります。瞑想では必ず「頭の中の言葉を止めろ」という。これは、クレアトゥーラに慣れきった私たちに、プレローマを見させる方法なんです。わたしたちが絵を見たり音楽を聴いたりするときもそう。マンガの主人公が師匠に鍛えられて開眼するときの「考えるな、感じろ!」ってのもそうですね。『ルビンの壺』で重要なのは、それが壺なのか向かい合う顔なのか、どっちが図でどっちが地なのか、ではなく、それらを分ける線の「くねり方」なんですよ。

*1:

新版 天使のおそれ―聖なるもののエピステモロジー

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*2:

ウィトゲンシュタイン入門 (ちくま新書)

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*3:

ウィトゲンシュタインはこう考えた-哲学的思考の全軌跡1912~1951 (講談社現代新書)

ウィトゲンシュタインはこう考えた-哲学的思考の全軌跡1912~1951 (講談社現代新書)