すべての夢のたび。

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『脳の中の「わたし」』

脳の中の「わたし」

脳の中の「わたし」


買っていたのをすっかり忘れており、今日読みました。良い本だったので紹介します。ぼくが時々書く、脳がどうしたとか"わたし"の正体は何かとか自由意志はあるのかとか、その手の話が好きな人には特に強くお薦めします。

一般の人の"わたし"ついての最も大きな誤解は、"わたし"は「原因」だと考えていることです。いや、一般人だけではないですね。おそらく脳科学者を除く、(他の分野の科学者や哲学者も含んだ)ほとんど全ての人たちがそう考えている。しかし、脳科学者はそれが正しくないということを知っています。"わたし"はある意味で「結果」なのです。

それはどういうことか? "わたし"が何かをしようと意志し、その結果行動が起こるというのが一般の常識です。ところが、脳に関する最近のあらゆる実験結果が、それは誤りだということを示唆しているのです。脳の特定の部分の活動がまず最初に起こり、それを受けて"わたし"の意志が起こり、行動が起こる。実際にはこういう順番なのです。

こういったことは新しい知見なので、まだ一般にはほとんど広まってません。この本は、そういう最新の脳科学の成果を紹介する本の中では、ばつぐんに解りやすい入門書です。なんといっても特徴的なのは榎本俊二さんの挿絵。ことばだけでは一体どんな実験なのか掴み難い部分が、イラストにされるとあらこんなにもよくわかるものか……という、とっても目ウロコです(たとえば、"わたし"を自分の体から抜き出す実験(!)などもイラスト化されている)。榎本さんの描くマンガ自体、もともとどこかテツガク的じゃないですか。この本、なんだか、どのイラストにもすごい「言い当てている」感があるのですね。解って描いている。脳には榎本、この組み合わせしか有り得ない、と思わせる。

でもいまのところはまだ、脳科学でも"わたし"とは何なのか、よくわかってはいないのです。そして"わたし"が「結果」だと頭では知ったとしても、(脳科学者自身を含め)誰もそんな"非常識"なルールに従っているつもりはないですよね。世の中を渡るときの振る舞いは別に変わらない。ぼくだってなにか失敗したときに「ぼくの脳がやったんです……」なんて言い訳はしませんし。しかし、やがてはこういう脳科学の成果がいろいろと実生活に応用されるようになり、いつか常識も変わっていくのかも知れません。なんと言っても、正しいのはほんとうはそっちなのですから。そして多分そうやって非常識と常識がすっかり入れ替わるまでは、"わたし"の正体は相変わらず謎のままなんじゃないか、なんとなくそんな気がします。