すべての夢のたび。

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意識はあなたが考えているようなものではない

意識は傍観者である: 脳の知られざる営み (ハヤカワ・ポピュラーサイエンス)

意識は傍観者である: 脳の知られざる営み (ハヤカワ・ポピュラーサイエンス)

人は通例、「自分」イコール「自分の意識」と思っている。あなたもそうだろう。では、あなたが日ごろ意識的に行なっていることは、脳の活動のどれほどを占めるかご存じだろうか。それは実は、氷山の一角でしかない。最新の脳科学の成果によれば、むしろあなたの意識は自分の脳について最も無知な、「傍観者」と言っていい存在なのである。 あなたは何かを見ているつもりでも、それは現実そのままではない。あなたの時間感覚も、現実とは微妙にズレている・・・・・・意識が動作を命じたとき、その動作はすでに行なわれているのだ! 巧妙な設定の実験によって確かめられている、これらのことが事実なら、結果が原因の先にあることになり、ものごとの因果関係が逆転してしまわないか。さらには、ヒトが自分の行動を意識でコントロールできないなら、その行動の責任は誰が、どう取るべきなのか……最新脳科学が明かす、心と脳の予想に反したあり方を、平易かつみずみずしく活写。ニューヨークタイムズ・ベストセラーリストに15週にわたって載った科学解説書が、満を持して登場。


ここ最近で読んだ本の中では、また人間の脳や意識に関する話題を扱った本のなかでは、もう圧倒的に良かった。ぼくの日記を読んでいるような人には強くお薦めしたいし、むしろ世界の全ての人が読むべき本であると思う。


この本の中でも喩えとして使われているが、これは「人の意識」の解釈についてコペルニクス的転回を強いる本である。内容は平易な言葉で書かれており、読めば誰にでも理解できると思う。しかしもたらされるインパクトは甚大だ。

いまの世では誰でも、地球は太陽の周りを回っているのだということを知っている。むしろ、昔の人たちはなぜ地球の周りを太陽が巡っているのだと信じていたのか。そのわらえるほどの自己中心的思想、傲慢さ。そちらの方が理解し難いくらいだ。でもぼくらもおなじなのだ。近い未来、いまは脳科学に携わる一部の人たちだけが共有する"秘密"が、まるで当たり前のものになるだろう。そのとき、いまのぼくらは、「なぜ昔の人たちは自由意志なんてものをのんきに信じていたのか?」、その自己中・傲慢をわらわれることになるのだ。いまがまさに時代の転回点なのだ。


でも自由意志はあるではないか? 手を挙げようと考えれば、手が挙がる。これが、自分の意志で引き起こした出来事でなくて、なんだというのか? そのように誰もが考えると思う。しかし違うのだ。そのとき、人の脳の中で何が起きているのか? 人はどのようにして自分自身を騙し、錯覚させているのか? この本は多数の症例や実験結果を淡々と積み上げて、今まで(根拠もなく)信じられていた人の意識についての考えを突き崩していく。手を挙げようと考えれば手が挙がる、こんなことすらもウソなのだ。

脳は意識的な考えが起こる前に既に行動の準備を始めている。ベンジャミン・リベットによる有名な実験では、しかしまだ人間には"自由否定"、行動を取り止める自由は残されているとされていた。だがこれも、形を変えて自由意志を生き延びさせようとして、リベットが単に自分の希望を述べただけであることが示されている。人の意識は徹底して傍観者であり、"自由"が入り込む隙間はそこにはないのだ。

地球は宇宙の中心ではなく、無数の銀河の片隅にある恒星系のありふれた惑星にすぎない。人間は神により創られた存在ではなく、他よりちょっと進化した生物の一種にすぎない。人は単なるDNAの乗り物にすぎない。過去にもそういう「人間の権威の失墜」は何度かあったが、今回のこれもまた酷いものだ。この文章を書くのも、読むのも、自分の意志でやっているのではないとは!


日は昇り、日は沈む、日常レベルはそれでよい。しかしロケットを飛ばそうと考えたらこんなではダメで、世界についての正しい理解が必要になる。ぼくらが人間の意識について誤った理解をしているがためにうまくいっていないことが、世の中には実にたくさんあるのだ。それは正されるべきだし、そうして心理学や哲学、政治に経済、教育・法律、その他あらゆる分野にこの考えを拡げることによって、人はより幸福な状態を目指すべきである。しかし「そうするべき」と考えている存在はそもそもいったい誰であり何者であるのか? 叩き潰された権威のかけらを拾い集めて、新たな人間理解を組み上げなくてはならない。その作業にはまだしばらく時間がかかりそうである。