すべての夢のたび。

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アンドロイド版『三人姉妹』観てきた

スマホのOSではなくて本来のAndroidが出演する演劇です。

http://www.seinendan.org/jpn/info/2012/10/threesisters/

かつては家電メーカーの生産拠点があり、大規模なロボット工場があった日本の地方都市。

円高による空洞化で町は衰退し、現在は小さな研究所だけが残っている。
先端的ロボット研究者であった父親の死後、この町に残って生活を続けている三人の娘たち。
チェーホフの名作『三人姉妹』を翻案し、日本社会の未来を冷酷に描き出す、アンドロイド演劇最新作。


石黒浩教授ファンとしては、教授制作のアンドロイドが出演する平田オリザさんの演劇は一度は観てみたかったのですが、なんせこの、情報を集めるということをあまりしない人なので、いつ、どこで、それが行われているのか、さっぱり知らなかったんですね。今回たまたま……どこでだっけ忘れた……耳にしまして、それで急いでチケットを予約して観にいく事にしました。

で、ぼくは、演劇は正直ほとんど知りません。お金を払って観るのは2回目で、しかも前回は演劇の学校に通ってた知人の卒業公演だった、というわけですげえ昔です。なのでこの、今回の「青年団」という劇団が平田さんの主宰するものだということすら知らなかった(さっき劇場で知った)。劇作家と劇団はどうやらセットになってるものらしいという知識を新しく得ました。

なので、他の演劇と比べるべくもないのですが、始まり方が面白かったなぁ。映画だと、予告編が流れて、暗くなって、まだ予告編が流れて、デケデケデケデケデケデケデケデケ映画泥棒が流れて、さぁ始まりますってなるじゃないですか。でも今回の劇、観客の着席も全部済んでないころから役者さんがフラッと出てきて、舞台上のリビングのセットのソファに寝転がって、雑誌とか読んでるんですよね。ナニコレ!?ってなりましたよ。まだ客席ざわついてるのに。そのうち席が全部埋まって、静かになって、でも延々雑誌読んでる。なんか起きるのかなーとみんなその役者さんを注視してるのにひたすら雑誌読みという奇妙な空気の数分が流れ、さてやっといよいよついに劇が始まりました。


まぁ肝心の劇内容はネタバレになるので避けます。


つーかチェーホフとか名前しか知らないし当然もとの『三人姉妹』がどんな話なのかも知らず、今回の平田オリザさんによる翻案がどの程度原作をなぞったものなのか、風味が残されているのかもわかりません。ただ、平田さんの演劇はもっとストイックで硬い感じのものではないかと想像していたのですが、それは全然違った。いささかの誇張はあれど登場人物もふつうの人たちだし、話のやり取りもおおげさではないし、あちこちに笑いどころも仕込まれていました。これは予想外というか、先入観で変な予想を立ててたぼくが悪いのですが。

今回出演のアンドロイドは有名な『ジェミノイドF』です。どんなふうに出てくるのかと思ったら電動車椅子に乗って登場。なるほどこれなら移動もできますね。あとロボットの『ロボビーR3』も出てきました。こちらは合成音声でしゃべる、いかにも"科学未来館"とかにいそうなタイプです。ムラオカと呼ばれて執事役をやらされており、買い物に行ったりしていました。


で、劇が終わって、あー終りかーと思ったらアナウンス。なんと休憩後に平田さんと想田和弘さんのトークがあるという! 想田和弘さんは『演劇1』『演劇2』という、平田さんのドキュメンタリー映画の監督です。内田樹さんがこの映画についてちょっと書いてた(『平田オリザの法外な過激さについて』)のを先に読んでいたので、ああこの人が!と。

これはサプライズで、というかサプライズでもなんでもなくってちゃんと事前にアナウンスされてたようなんですが、なんせ情報を集めるということをしない人なので……。初日である昨日は石黒教授が来るというのを後から知って、他の日はそういうのないんだなーと思い込んで、あー初日にしておけばよかったなーって残念がっていたのです。

そして、このトークが爆笑また爆笑でほんと面白かった。『演劇1』『演劇2』は超長い、2本で5時間以上ある映画なんですが、5時間も平田オリザの顔を見続けるのはある種の修行のようなものですねとか。あと石黒教授の悪口w あの人は変人だとかあの人ぜんぜん空気読めないんですよとか。もちろん笑わせてるだけじゃなくってちゃんとした話もありましたが。橋下さん、とちゃんと「さん付け」で呼んでたけど、文楽の補助金の問題は怒って(るように見え)たなぁ。ああいう長い歴史を持ち世界中に広まっており文化として浸透しているものを、政治家ひとりの判断で止めるの止めないのなどと簡単に言うことはもはやできないのだ、と、そんなようなことを仰っていました。同意いたします。

で、劇場では物販があって、今回の劇の脚本(コピー製本)と、石黒教授の『人と芸術とアンドロイド― 私はなぜロボットを作るのか』と、平田さんの『わかりあえないことから──コミュニケーション能力とは何か (講談社現代新書 2177)』を買い、著書にサインを入れていただき、なんと握手していただいたという。どんだけミーハーなのかw


そもそもこの2人はどうして一緒に仕事をすることになったのか? 今日のトークで平田さんも言ってましたが、石黒教授は他のロボット研究者とはちょっと違う部分があります。他の人たちは、機能から、中身から入る。人間にできることはこれこれで、歩くこと、話すこと、手を使うこと、考えること、それらをどうやって機械で実現していくか、そこから研究の道に入るわけです。でも石黒教授は形からやっている。まずとにかく人間の形をしたものを作ってしまう(石膏で型を取って!)。そしてそれをどうやって動かせば人間らしく見えるのかということをやっている。ロボット研究といいつつ実は人間研究、ロボットを通して「人間とは何か?」を突き詰めようとしているわけで、目指すところが実際は違うんですね。

そしてそれが、平田オリザさんの演出技法とマッチしていたというわけです。先ほどの内田樹さんの記事にも書かれているんですが、平田さんの役者に対する考えは一般的なものではありません。『ガラスの仮面』の真反対、役者が役になりきるなんてまったく不要、役者は100%演出家の指示通りに動ければそれでよい、役者に内面など必要ない――というのです。究極的には役者は人間でなくてよい。内面のないロボット・アンドロイドがどう動けば人間らしく見えるのか、その研究をずっとやってきた石黒教授との出会いはもはや必然のような、そんな気もします。

実際平田さんの役者に対する指示はものすごいレベルのものらしく、「どのように動けばそれらしく見えるか」という絶対基準に従って、動作から視線まで全てがコントロールされており、発声タイミングも0.2秒単位で細かく指定されているそうです。件のドキュメンタリー映画ではその稽古の様子が見られるらしい。それに従える役者さんの技術はとんでもなく高水準なものでしょうが、他の劇団では通用しないスキルだろうなぁとも思います。そんな心配しても仕方ないですけど。

そういや平田さんが民主党の鳩山元首相の所信表明演説の草稿執筆に関わり、演説自体の"演出"もやった、という話もあったのですが、あれも「内面とかカンケーねー」と思っていたからできたのかも知れませんw まぁあの人に内面があるのかあったのかどうかも怪しいものですが……。


劇場出たらツイートしてください、と仰られておりましたが、なんとあの平田オリザ作の演劇のチケットはまだまだ余っておりネット経由で簡単に買えたりします。あんな有名な人なのに。しかも日本唯一いや世界唯一のアンドロイド演劇です。関心がある人は観にいってみてもよいと思います。