すべての夢のたび。

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ヒトは善きものであった件について

感性の限界 不合理性・不自由性・不条理性 (講談社現代新書)

感性の限界 不合理性・不自由性・不条理性 (講談社現代新書)


著者の『理性の限界 不可能性・不確定性・不完全性 (講談社現代新書)』『知性の限界 不可測性・不確実性・不可知性 (講談社現代新書)』を読んでましたので(紙で)、新刊も読んでみました(Kindleで)。

人間の愛は「不合理」なもの? 自由だと勝手に信じている人間が実際には「不自由」? なぜ人間は生まれて死ななければならないという「不条理」に遭遇しているのか? そもそも、人間とは何か……? 「行為」「意志」「存在」の限界をテーマに、行動経済学者や認知科学者、進化論者、実存主義者など多様な分野の学者にカント主義者や急進的フェミニスト、会社員、運動選手、大学生も加わり、楽しく深く広い議論を繰り広げる。


……という本です。まぁバーチャルディスカッションなんですけどね。カント主義者が毎度うざくるしいんだw

で、読んで、ああこれは書かねばなるまい……ということがあったので書きます。

認知科学者 今のお話は、実はそのままヒトの認知活動にも当てはまるのです。私たちは、直感的なヒューリスティック処理システムを「自律的システム」、それに対して、論理的な系統的処理システムを「分析的システム」と呼んでいます。
 ヒトの脳内には、これらの二つの異なるシステムが並行して存在し、それぞれが独自のメカニズムで動いていると考えられます。いわば一つの脳内に二つの心が共存しているわけで、これが多くの学者によって提唱されている「二重過程理論」なのです。


この、「二重過程理論」ってコトバ、初めて聞いたんですけど、実はよく知ってることだった。"多くの学者によって提唱されている"とあり、20を超える理論が本書中では別表として掲載されているのですが、その中からいくつか抜粋してみます。前者が二重過程理論のシステム1で、後者がシステム2です。

  • 「したい自己」と「すべき自己」
  • 「経験的システム」と「合理的システム」
  • 「暗黙思考過程」と「明示思考過程」
  • 「直感システム」と「推論システム」
  • 「ホットシステム」と「クールシステム」
  • 「自動的発動」と「意識的処理」
  • 「連想的処理」と「規則的処理」


哲学・情報科学・認知科学・神経生理学・社会心理学・発達心理学・臨床心理学・意思決定論・ゲーム理論など、いろーんな分野で別個にこれらの理論が立てられていたらしいんですが、まー学者さんは専門以外のことにうといわけでして、そんな状況になってることに気づく人がいなかった。これらの似たような理論をひとくくりにして、2004年に認知科学者キース・スタノヴィッチという人が「二重過程理論」と呼ぶことにしたみたいです。

何と何が並べられているのか、なんとなく、わかりますよね? ぼくは、システム1を「感情」、システム2を「理性」って呼んでます。そのことです。


で、ここからが本題。

東南アジアに生息するという「爆弾アリ」の話が出てきます。知らなかったんですけど、外敵が巣に入ってこようとすると自分の腹をふくらませて破裂させるんだそうです。当然、自分は死にますが、飛び散った粘液に絡め取られて外敵は動けなくなる。

これが「利他的行動」の例として挙げられているのです。「利己的遺伝子」が個体を犠牲にしても生き残りを図るというアレです。しかし、続く文章でショックを受けた。

認知科学者 そこで非常に興味深いのは、スタノヴィッチの二重過程理論によれば、ヒトの脳内の「自律的システム」は遺伝子の利益を優先し、「分析的システム」は個体の利益を優先していると解釈できることなのです。


ぼくはここを二度読み返しました。待て。誤記じゃない? 自律的システムが遺伝子優先で分析的システムが個体優先? 逆じゃない?

ぼくはいまのいままで、人は感情に従うと自分勝手な行動ばかりになるから、理性でそれを律しなければいけないのだ、と思っていたんです。ただ漠然と。

完全な思い違いをしていました。深く考えたことがなかったんです。だって、動物は理性が未発達で、感情システムしか持ってなくって、でもそれでも、利他的行動をうまくやってのけている。初めっから、"感情=利他"だったんです。こりゃ結構衝撃でしたよ。読書で得るものがあったという、よい週末になりましたよw


まぁこれは、朗報です、福音ですよ。よいしらせです。だってたとえばこれって、「性善説の肯定」に繋がるわけですからね。人の本性は善だったんです(利他的行動を善と定義すればね)。システム1とシステム2、優先システムは1なんだから、そういう結論になります。

それに、「ではなぜヒトには理性があるのか?」って話ができます。利他的行動を司る感情システムの上に、なぜ個体利益で行動をコントロールする理性システムが乗っかっているのか? そして、ヒトという種の地球上での繁殖状況を鑑みれば、この二重システムによる戦略が大勝利をおさめていることは疑いようもありません。

つまりそれって、「生物は利己的遺伝子の乗り物にすぎない」という説が、ヒトには適用できないということです。ドーキンスの敗北を目撃しました。嫌いなんだよなードーキンスw 「ヒトは利己的遺伝子の乗り物以上の何か」だったんです。