『なぜ人を殺してはいけないのか? (河出文庫)』 22P、永井均さんと小泉義之さんの対談で、永井さんの語りの一部を引用。
ぼくは学習塾の教師をやっていた長い経験があるんですけれども、子供によって能力の差がすごくあるんですが、「きみはバカなんだから」とか「おまえはだめなんだ」とか絶対言っちゃいけない。どう言うかというと、「努力が足りない」と言うわけです。「もうちょっと頑張れ」ということを何度も言うわけね。「やってないからできないので、もうちょっとやれば必ずできるようになる」と。でも、これははっきり嘘なんですね。本当はやってもできないんですよ。あるいは、やるということができない。だけれども、それは言ってはいけないんですね。「もう少し頑張れ」と言って、少しでも頑張らせる。そうするとその子は、自分には能力がないということには気がつかないで、頑張れない人間に仕立てあげられていくわけです。
そうですよね。これって、ある。すごく解りやすい説明だったので引用してしまいました。
これ、あまりにも巧妙な嘘なんで、もう誰も意識できなくなっちゃってますよね。人間、頑張ればなんとかなるって、みんな信じちゃってる。最初から絶対的な能力の差があることもあるって事実は隠蔽されてる。そして、心の問題にされちゃってるんですよね。
確かに、能力に差があるって現実には、まったく救いはないですよね。何といっても、それはどうしようもない、どうやってもひっくり返しようがないことなわけですから。でも、だからこそ受け入れなくちゃいけないことであるはず。その大事なことをひた隠して「やればできるはずなのに、やらない人間なんだ、お前は」って別の問題にすり替えるのは、二重にひどい。
"善なる嘘"とは、永井さん曰く、「事実に反している(ことは知っている)が、それが事実であるかのように語ることで世の中がよくなるような言説のこと」だそうです。"よくなるような"であって、"よくなる"ではない場合もあることが含意されてますよね。この問題はたとえば、ガンで余命幾ばくもない人にそれを告知せず、頑張って治しましょう、と告げることにどこか似ている。それはいいことなのか。そうだとしたら、誰にとっていいことなのか。
善なる嘘、そこら中にありそうですよね。気を付ければきっといろいろ見つかると思う。