永井均先生の『倫理とは何か─猫のアインジヒトの挑戦』*1を読んで、けっこう難しかったので、もうちょっと戻ろうと思って『なぜ悪いことをしてはいけないのか』*2を読みました。さらにわけわかんなくなった(笑)。たいへんなんですねぇ、倫理学というものは。
自分にも理解できた、新鮮な事実。「道徳的な人」と「非道徳的な人」は同じ戦略を取る。つまり説明すると、道徳的な人は「皆が道徳的に振る舞ったほうが、よりよい社会になる」と考えて、他人に道徳的な生き方を勧めます。いっぽうで非道徳的な人は「俺以外の皆が道徳的に振る舞ったほうが、俺にとってよりよい社会になる」と考えて、やっぱり他人に道徳的な生き方を勧めるのでした。またゲーム理論とか囚人のジレンマの話になるんですけど、皆が真面目にやってるとこで抜け駆けするのがいちばんおいしいわけです。そして、抜け駆けする人が少なければさらにおいしいから、非道徳的な人は自分の「ほんとうの」戦略はけして他人には語らないという。
『なぜ悪いことをしてはいけないのか』で、永井先生は利己主義者を3つに分けてました。「すべての人が自分の利益を目指して行為すべき」という普遍的利己主義、「他人はどうでもいいが自分は自分の利益を目指して行為すべき」という個人的利己主義、「すべての人が私の(この私の!)利益を目指して行為すべき」という徹底的利己主義。最後のが永井先生だというわけで、もうここまでくるといっそすがすがしい、さすがです。わたしは笑ってしまいました。
ただ、ほんとうに徹底的利己主義者であれば、そういう主張をしないはずなので(自分が利己主義であることは隠し、他人に道徳的な生き方を勧めていればよい)、それをぽろっと言ってしまうところが、先生の言う「(利己主義者の)愛」なんでしょうね。世の中には「道徳的であれ」という言説がいっぱいだから、そのまっすぐな線の上を歩いて行けと言われて、外れるたびに自分を責めがちな人がいる。そういう人に「君はもっと自由にやっていいんだよ」と感じさせるのが永井先生の本の効用のひとつと思います。
わたしにしてはめずらしく、ほんとにすごいなぁと思ってる人なので、永井氏とかあまり書きたくなくって、尊称にしてます(笑)。
*1: 倫理とは何か―猫のアインジヒトの挑戦 (哲学教科書シリーズ)
*2: なぜ悪いことをしてはいけないのか―Why be moral? (叢書 倫理学のフロンティア)