すべての夢のたび。

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〈意識〉は脳内のマジックショー

ソウルダスト――〈意識〉という魅惑の幻想

ソウルダスト――〈意識〉という魅惑の幻想

〈意識〉は脳内のマジックショーにすぎない――
それはいったいなぜ発生し、生物学的にはどのような役割を果たしているのか?
意識研究の最先端を切り拓く大胆な仮説を提唱する、理論心理学者ハンフリーの集大成!

著者は本書で驚くべき新理論を提示する。意識は私たちが頭の中で自ら上演するミステリアスなマジックショーにほかならないというのだ。この自作自演のショーが世界を輝かせ、自分は特別で超越的な存在だと私たちに思わせてくれる。こうして意識はスピリチュアリティへの道をつけ、そのおかげで私たち人間は、ハンフリーが「魂のニッチ」と呼ぶ場所に暮らす恩恵を受けることができると同時に、死への不安も抱くことになる。

隙のない主張を展開し、知的好奇心と読書の喜びをかき立てながら、深遠な難問に次々と答えを出していく。そして、誰もが頭を悩ます疑問、すなわち、いかに生きるべきか、いかに死の恐怖に立ち向かうかという課題に、意識の問題が直結していることを明らかにする。

神経科学や進化理論を基盤に、哲学や文学の豊富な知見を織り交ぜて書かれた本書は、意識の正体についての独創的な理論を提唱すると同時に、人間の生と魂を讃える――
リチャード・ドーキンスやダニエル・デネット、マット・リドレーら著名な科学者たちからも支持を得る、〈知の軽業師〉ハンフリーの刺激的論考。

少し前にちょっとだけ紹介したこの本ですが、読んでみたら予想してた内容とだいぶずれてました。脳科学的なアプローチで意識の謎を解明してく本だと(まったく勝手に)思ってたんですけど、そもそもこの人は理論心理学者でした(帯にも書いてある。見落としたぼくが悪い)。

では期待はずれの内容だったのかというとそうでもないのですが。ただ、人にお薦めはしにくいかな。もし興味を持たれた方は、まず訳者あとがきをご覧になるとよいと思います。わずか5Pの訳者あとがきには、すごいことにこの本のほぼ全ての内容が要約されています。読めば、自分に合うものかどうかわかるはず。

お薦めしにくい理由のひとつは、この本の話の進め方です。著者ニコラス・ハンフリーは意識についての理論を提示します。が、その根拠がなにもないのです。いや、あることはある。それは「意識がこのようなものであるからこそ、それが自然淘汰で有利に働き、人類は生き残ってきたのだ」という、ただその一点だけです。ぼくからすると進化論を原理主義的に信仰しすぎてる。ハンフリーのロジックが正しければ、パンダが白黒なのも、人間の足の小指も、それぞれの生存に必要なのだということになります(もしかしたらそうなのかもしれませんけどね!)。

ただそれによって主張されてる内容が、まとはずれではないように思える。そこが評価が難しいところなんですが。実際読んでいて、なるほどな、とうならされる部分が多々ある。なぜ人は、存在することに喜びを感じ、世界の美しさに目を見はり、"私"の存在に気づき幻惑されるのか。「それは、それが生存に有利だったからだ」とハンフリーは言います。そして、それらがなかった場合に比べどう有利なのか? そこを大胆に説明していくのです。

終り近く、第12章「死を欺く」の、動物にはない"死"の概念を持つことが人間にはいかに有利に働いたのか、そこの説明には個人的にはかなり得るものがありました。

「死によって不意に自分の命が断ち切られる時をはっきりと知っている人間は、どうすればいいのか?」 人生に意味を取り戻す三つの戦略を検討してみよう(いや、少なくとも見てみよう)。それらは、死にまつわる不安に対する人間の反応として広く見られる戦略だ。

  • 未来を割り引いて考える――そして、現在のために生きる。
  • 非個人化する――そして、自分の死後も残る文化的存在と一体化する。
  • 肉体の死が最終的であることを否定する――そして、個人の自己は不滅だと信じる。


並べた順に高度な戦略になるとハンフリーは考えてるようです。こういうふうに、死の恐怖に人間はどう処してきたのか、それをうまく分類してまとめたものを読んだことはなかったので、ちょっとハッとしました。これは使える、と。

今を生きる。これはよく言われることですね。過去や未来ではなく現在に注力することで人生がよりイキイキしたものになる。自己啓発本っぽいw でもぼくも取っている戦略です。だがハンフリーの分類では下位のほうだった!w それよりも、家族のため、周囲の親しい人たちのため、社会のため国のため、そういうもののために生きるのだ、としたほうが、戦略としては高度らしい(倫理的に高度だ、とは言っていません)。日本はここまでなんだろうな。3つめの「個人の自己は不滅だと信じる」は要するに宗教ですからね。でもハンフリーは西洋の人なので、例えば仏教やヒンドゥー教みたいな、最終的には輪廻の輪から外れることに慰めを見出す感じのやつ、それは出てこないですけどね。そんなのがあると知ったら論調が変わってしまうかもしれないw

もういっここの本をお薦めしにくい理由は、やっぱり内容的に先を行き過ぎてるというか、この本を読む上での前提となるいろいろがあるような気がするからです。おいおいそんなことみんな解ってることにして話進めちゃうわけ?とツッコミたくなるところが時々。ぼくは解ってる、というのも自惚れですけどね。例えばこの本は意識についての本なのに自由意志の話とかは出てこない。そんなのは、ない、というのが前提なのでまるで触れられてないわけですw 意識の研究者の間ではもうそれが共通認識なんでしょうかね。